『資治通鑑』とは
渡辺 理
司馬光の『資治通鑑』は、周代紀元前403年から五代十国までの約1500年間に及ぶ歴史を記した 1万ページ、全294巻にも及ぶ世界史上最長の歴史書である。
これは、高校の世界史の教科書で必ず記述されるが、日本語訳を入手するのは難しい。ネットで見ても、部分訳があるぐらいで、誰もが自由に完訳を閲覧できる状態でない。
『資治通鑑』が書き始める紀元前403年は、周(東周)が三家分晋を追認し、韓、趙、魏を諸侯の列に加えた大変化があった。これは、戦国時代の幕開けという中国史の重要な分岐点にあたる。神話交じりの神権国家から政治に基づく本格的国家が成立し、歴史が動き始めたという意味で、この年から著述がなされた。『資治通鑑』は伝承や不確実な情報を省き、合理的にまとめた大著である。
『資治通鑑』が参考にした文献、例えば、『晋書』や『旧唐書』といった各王朝の史書、を通読しようとすれば、『資治通鑑』を読むのに較べ、何倍もの文章量となる。加えて各史書は使用されている単語をはじめ文章が難しい。『資治通鑑』の方はこれでも長文でなく、各王朝の史書に比べると単語は比較的易しくなっている。
編集総責任者の司馬光の感想や意見が極めて少ない。そもそもこの本は皇帝として知るべき最低限の教養として編纂されている。著書内の人物描写も一人一人丁寧であり、歴史小説のネタに事欠かないほど充実している。また、編集者なり著者の考えを読者に押し付けるのではなく、一つ一つの史実を考えさせるという点で優れている。
現代中国とりわけ習近平政権は機密事項が多く、外からその政権の実情や性格を推量するのは容易でない。中国事情に関する余程の学識や経験、人脈等が無い限り、つまらない風説になるのがおちである。毛沢東も本書を読んで,支配の知恵にした。
今日、中国人を無視して国際社会は成り立たないので、『資治通鑑』は中国人を知るヒントともなる。『資治通鑑』は歴史上著名な日本人も読んできた大著なので、日本人の思想を再発見する参考にもなる著書である。