夏目漱石の「坊っちゃん」
倉田 稔
数年前、『北海道新聞』の第1面で、夏
目漱石の「坊っちゃん」が連載されたこと
がある。
これには複雑な思いがした。
新聞で、こういう古典的名作が再び出さ
れるということは、うれしいことではある。
しかし、こういう物は本を買って読んで貰
いたいものだとも思う。さては、「坊ちゃん
」はあまり読まれていないのだろう、と考え
た。
そこで、大学での講義の際、「坊っちゃん」
を読んだことのある人に手を挙げてもらった。
200人のうち、数人であった。約3%の大
学生しか読んでいないのであった。
私はがっかりした。ただし後で、ある学生
が、「坊ちゃん」が新聞で出たので、読んでみ
たら、面白かったと、云ってきた。
それでも私は、「坊っちゃん」を読んだこ
とのないような学生に教えているのか、残念
だなと、思っていた。そこで私のゼミ学生に、
この実情を伝えたのである。彼の答えはこう
であった。「坊っちゃん」なんか詰まらないで
すよ、というのであった。
私は分かった。その通りだ。今ではとても
面白い小説が出ているので、「坊っちゃん」な
どは、つまらなくて読む気がしないだろう。
それになお、夏目漱石の小説は表面的には
面白くない。「坊っちゃん」が一番面白い小説
である。
こうして、時代と共に小説の読まれ方は変
化してゆくのだな、と感じ入った。