段ボール肉まん捏造報道(改定編)
 
 中国における安全性に関し、「段ボール肉まん」の報道が北京テレビによる虚偽報道であるとして、謝罪報道がなされた(『北海道新聞』2007年7月19日付夕刊)。日本でも、生活情報番組『発掘!あるある大事典U』(関西テレビ)の2007年1月7日放送の「食べてヤセる !!! 食材Xの新事実」で、納豆のダイエット効果を示すものとして紹介されたアメリカの研究者の証言や、番組独自の実験結果などについて数箇所にわたって捏造があったことが判明し、社会的事件となったことがある(今野勉「テレビ回生への道をどう開くか」『世界』2007年4月号、参照)。
 日本と中国での虚偽報道について、決定的違いがある。日本での事例は、冷静に視聴すれば、たわいもないパロディーであり、ダイエット効果を得ることができなくとも、納豆そのものを食すること自体、健康である、という総論に達することができる。中国の事例では、日本の納豆業者が情報に振り回せられて増産や風評にあうレベルにとどまらない。中国国内外を問わず、やはり中国の「食」は信用できない、という印象を強く与えてしまった。こうした「自虐ネタ」により、風評被害は大きかった。特に朝食を屋台で食する習慣の労働者の敬遠や、不正に携わっていないにもかかわらず、北京市の指導によって、肉まんでなく野菜饅頭を作らされることとなった一部の業者の被害は深刻であった。そして、放送から一週間後、捏造報道であると、発表された。
 正直の所、小生もこの「段ボール肉まん」報道を信じた。番組の中で、素手で劇薬の苛性ソーダを扱ったり、中華包丁でみじん切りする程度で、本当に客が粗い食物繊維に気づかないのか、いくら豚肉をはじめとする肉類が7月の消費者物価で45.2%(前月は35.7%)と、価格が高騰している(『北海道新聞』2007年8月14日付朝刊)とはいえ、本当にコスト・ダウンになるのか、等とも疑問もあった。しかし、これだけ、世界中を中国製品が騒ぎを起こしている以上、実際ありうると小生は思ってしまったのだ。テレビ報道は映像や音声で強い説得力があり、「曾母投杼(そうぼとうちょ)」どころの効果ではすまないと、改めて感じた。
 「段ボール肉まん」報道は、「屋台で紙切れが混入された肉まんを食した。」という匿名の視聴者による情報提供から取材を始めた、と北京テレビの番組担当のディレクターは説明をはじめた。ところが、取材をしていて件の屋台が発見できず、番組編成の時間に追われるとともに、視聴率を稼ぎ、自分の実績を上げるために捏造報道に手を染めたと言うのである。ちなみに、「段ボール肉まん」報道を受け、北京市公安委員会が件の屋台を調査したが、発見できなかったとのことである。
 この捏造報道をめぐっては、12日北京市第二人民中級法院(地裁)で、北京テレビ元臨時職員の男性被告(28)に懲役1年、罰金(約1万6千円)の有罪判決を下した(『北海道新聞』2007年8月14日付朝刊)。このディレクターが、おそらく厳しい生活状況であろう出稼ぎ労働者を使い勝手のよい捨て駒の如く、不正に関与させたのだろう。そのことは卑劣ともいえる犯罪である。ただ、被告本人も同様の憂き目にあったのではないか、という感想を小生は抱く。つまり、中国当局による情報隠蔽工作である。それは北京五輪を控えて、これ以上、世界的な風評を広げないために北京テレビに罪をかぶせて、段ボール肉まんは虚偽であると、報道をしたのだという疑念を小生は有する。
 というのは、中国は情報の検閲や統制が一方で厳しく、国内外のメディアを問わず、自由に報道や放送ができないからである。現に2005年に日本で盛んに報道された反日デモも、過激な内容に関しては政府当局により閉鎖に追い込まれている。また、6月に化学工場の建設中止を求めるデモがあった中国のアモイ市で、市政府が全国初という「インターネット有害・不良情報管理規則」制定を目指している(『朝日新聞』2007年7月18日付朝刊)。勿論、中国の憲法違反として市民は反発している。それにしても、北京や上海をさしおいて、一地方都市がやることの無理もさることながら、そもそも中央集権がまだ根強い中華人民共和国で、そのような「違憲」な意見が存在すること自体、行政の情報統制の強さをうかがわせる。
 この捏造報道が放送された番組名は「透明度」である。つまり、視聴者は「食」の現状について、はっきりと事実を知りたかったのである。放送倫理上での問題もさることながら、中国政府の「食」の安全に対する検査体制の遅れと共に、情報公開の不十分なことが国内外の世論の不信を醸成している。外国向けに限定せず、少しずつでも中国国内向けにも情報公開を進めるべきである。それは勿論、事実にそくしたものであり、事実の歪曲や捏造は許されない。 
(渡邊理)