書評   『日本を良くするために』成文社

 

 渡辺 理

 

 今日の日本はあれこれと欲を言わなければ、基本的には海外出身の方にも住みやすい良い国なはずなのに、生きづらさを多くの日本人は感じている。毎年、海外からの観光客が増加するくらい人気のある国なのに、周りの空気を読んで忖度しなければならないほど、漠然とした不安や重苦しい雰囲気に覆われている。もやもやしてはっきりしない日本社会について「ズバリこれだ!」と知りたい人やもしかしたら日本はもっと住みよい国になるかもしれないと思う人にお薦めなのが本書だ。

 32頁のポケットサイズの冊子だが、テーマは金権政治、選挙、行政、労働それに教育と幅広い。天下国家から日常生活についてまで議論できる内容だ。段落や節ごとに簡明にまとめられているので、どの部分から読んでも差し障りない。内容が広範囲で深いにも関わらず、難しい単語や細かくて見るのも面倒そうな表やグラフもない。平易な文章なので、日本語を母国語としない初級から中級レベルの学習者向け教材にも活用できる程だ。何よりも筆者が自身の考えや知識で教え導くのではなく、読者に寄り添い共に考えてくれる意義深い書物だ。次に梗概を記す。

 金権政治について、今も安倍政権は依怙贔屓と思える優遇をしたとして森友・加計学園問題で批判されている。雲の上のような偉い人のやることだからわからないし、手が出せないと諦めている日本人は少なくないだろう。だが、本書では日本を死に至らせる病といえる状況について的確な症状とその処方箋を記している。

 行政について、今日、森友学園に対して便宜をはかり、それに関連する証言がウソと疑われる佐川宣寿・国税庁長官の疑惑に限らず、官僚の問題も大きい。天下りをはじめ国民の生活感覚とのズレが大きく国民生活のために必ずしもなっていない。そうした状況への考え方や対応も記している。

 筆者について簡述する。小樽商科大学で長らく社会思想史を担当されてきた。その講義は古今東西の社会問題に関し、的確でわかりやすく、あたかも医者の処方箋のように有効で腑に落ちる内容と評判だった。本書は社会思想史の講義の中で日本社会の問題に関する要点を濃縮したものと言える。

 教育問題についてまず、いじめ問題について現実を冷静に観察した上で解決策を記している。さらに日本の小中高大の学校において、いわゆるトコロテン方式の進級問題も記している。その上、日本の教育が普通の文章を書く教育をしていない、と鋭い問題提起がある。コミニュケーション能力が重要と叫ばれても、上手くいかない要因と思われる。

 本書は説教臭さや思想の押しつけが無く誰にでも手に取りやすい、いわば常備薬のようにたよりになる。日本社会を考える一助となる。